
はじめに:加算を取る前に「リスク」の視点を
介護・障がい福祉サービス事業所の運営において、報酬改定のたびに話題となる「加算」。
体制整備やサービス向上に対する報酬として、加算を取得することは収益アップにもつながります。
しかし、加算取得は「プラス」ばかりではありません。
その裏側には、“運営指導”というリスクが存在することを忘れてはいけません。
加算を取れば取るほど、運営指導の際にチェックされるポイントは増え、場合によっては返還や是正指導の対象にもなり得ます。
この記事では、加算取得に潜む「運営指導リスク」とその回避方法について、現場目線で詳しく解説します。
運営指導とは何か?なぜリスクになるのか?
「運営指導(実地指導)」とは、行政機関(都道府県・市区町村)が、福祉事業所の運営状況を確認し、法令や報酬算定ルールに違反がないかをチェックする制度です。
主な確認項目
- 職員配置・資格の整合性
- サービス提供体制や記録の実施状況
- 報酬(加算)の適正な算定
- 利用者との契約、説明、同意書の整備
- 各種研修(虐待防止・身体拘束・BCPなど)の実施状況
これらの中で、「加算を取得しているかどうか」は、重点的なチェック対象になります。
加算を取ることで発生する“具体的なリスク
1.書類不備による返還リスク
加算の算定には、それぞれ詳細な要件が定められています。
必要な記録や帳票が1枚抜けているだけでも、「算定要件を満たしていない」と判断され、返還対象になることがあります。
たとえば:
- 科学的介護推進体制加算(LIFE加算) → 利用者の同意書がない
- 個別機能訓練加算 → 実施記録が曖昧 or 訓練計画の未作成
- 認知症加算 → モニタリング記録がコピーのように同じ内容
2.実施体制・人員配置の不備
- 計画作成者や指導員が、実際には資格を有していなかった
- 非常勤職員の勤務時間が足りず「人員基準未達」とされる
こうした場合、形式的に書類だけ整っていても、指導時に“実態がない”と判断され、厳しい指摘を受けます。
3.研修義務の未履行
令和の制度改正では、加算に「研修実施義務」が伴うケースが増えています。
しかし実地では、「研修はやったつもり」でも、記録・写真・出席確認などがなければ評価されません。
「取るだけ得」はもう古い!加算取得は“戦略的”に
「取れる加算はすべて取っておこう」という考えは、かえってリスクを拡大させる要因になります。
加算は、「取得後」が本番です。
制度要件の継続的な管理、職員教育、記録整備、定期的な内部点検ができるかどうかが大切です。
加算取得は、“体制が整っていることの証明”としての意味を持ちます。
実態が伴っていない場合、「不正請求」と判断されるリスクもあり、最悪の場合は指定取消や返還命令、自治体との信頼関係の破綻につながります。
加算を取る前の“セルフチェックリスト”
以下の項目にすべて✅がつかない場合、加算取得は見送る勇気も必要です。
- ✅ 加算要件を詳細に把握している(通知・解釈通知・QA含む)
- ✅ 必要な職員配置・資格を満たしている
- ✅ 実施体制が日常的に運用できる環境にある
- ✅ 記録・帳票類を整備し、継続的に保管できる
- ✅ 年間スケジュールに研修・評価などが反映されている
- ✅ 担当職員が加算の意義・実施内容を理解している
- ✅ 自治体と事前相談してリスクを確認している
加算と運営指導は「両輪」である
加算を正しく取得し、継続していくためには、運営指導の視点を持って日々の業務を見直すことが不可欠です。
日々の記録の蓄積が、運営指導における「最良の備え」となり、自治体から信頼される運営にもつながります。
まとめ:取る前に一度立ち止まろう
- 加算は「収益向上の手段」であると同時に「運営責任の重み」を伴う
- 書類の整備・人員体制・研修の実施ができなければ、取得は見送りも検討すべき
- 安易な加算取得は、返還や指導リスクだけでなく、事業の信頼性を失う危険性がある
おわりに:専門家のサポートも有効です
事業所単独では判断が難しい場合は、行政書士や社会保険労務士などの専門家に相談することで、客観的な視点から加算取得の可否を検討することができます。
加算取得は「ゴール」ではなく、「適正な運営を続けるためのスタートライン」。
安心して加算を活用するためにも、運営指導の視点を持った備えをしておきましょう。
当事務所では、運営指導対策や処遇改善計画書の作成、研修・委員会(法定内・法定外)等の様々なメニューを取り揃えております。
ぜひお気軽にご相談ください。